能力の高い調査官の上手な質問は、その核心を相手にさとられずに応答させることです。
質問者の真意を伏せることによって、回答者の恣意性のないありのままの声を聞こうとするのです。
この点についての対策は、実は難しいと思います。税法は「課税の公平」という大原則を掲げつつ「国家存立のための徴収」を確保するための立法趣旨が根底にあるため、独特な論理が多々見受けられます。従いまして、一般の方にはなかなか理解できない(気がつかない)規定がその調査官の質問の裏にあることを先読みするのは不可能にちかいと思います。
ですから、基本的には誠実に、明快に事実を回答するしかありません。(変におどおどしたり、ごまかしているような口調になることは調査が長引くだけですから。)
ただ、税理士とアイコンタクトが効くようにしておくということは有効だったりしますので、ひとつの対策として申し上げておきます。
調査が進んでいくと、社長も税理士も日々の業務の中では気づかなかった、微妙なニュアンス(まずいかもしれない)という事柄がでてくることもあって、税理士と調査官だけが意識しはじめている状況になることがあります。調査官はすぐにはつっこんできません。できるだけ税理士ではない、社長さんや経理担当者や現場の社員から聞き出すタイミングを計っています。
そんな時に、税理士の目が訴えている「あまり多くを話さないでください。」「うまく即答をさけてください。」というメッセージを感じ取っていただくと助かることもあるかもしれません。
例えば、取り扱い商品や仕掛物件の在庫の一部がもれていたとします。(もれている、ということは貸借対照表に計上すべき資産が簿外処理されているということですので、結果過大に費用計上されているということになるので、修正したら追徴税額がでます。)
これは、売上と原価(or在庫計上額)を突合することによって判るのですが、調査官は「○○の在庫が計上されていないようですね?」と直接的には聞いてきません。「○○の売上は誰々さんに対して発生してますよね?決算月である3月31日にはもう完成して引渡ししているんじゃないんですか?」と言ってきたりします。4月2日に引き渡した経緯を覚えている社長は、堂々と強気で「いえ、それは間違いなく4月に入ってから引き渡したもので3月31日には、まだ当社のものでした。ですから売上ではありません。次の期で売上計上してるんだから問題ないでしょ。」と答えます。これで本人からハッキリ(それは当社の在庫です。)という言質がとれました。社長は売上計上もれを指摘されているものだとばかり思っているので、在庫計上もれ等と露ほども思っていないわけです。
この例はわかりやすい事例で、微妙な要素を含んでいるわけではありませんが、調査官はわざと核心を外して聞いてくることがあるということを覚えておいてください。